AIの進化は、メディアの在り方と、そこから生まれるユーザーの情報体験を大きく変えつつあります。
そして今、その変化はメディアの枠を超え、
私たちが「どこで・何を・どんな自分として」情報に触れるかという前提そのものへ広がっています。

生活者は状況に応じて複数の自分(マルチアイデンティティ)を自然に切り替え、
AIはそれぞれの人格に合わせて最適化された情報を届ける存在になりました。

本記事では、こうした変化がメディア環境やマーケティング戦略に
どのような影響を与えているのかを、領域別に整理しながら解説していきます。

AIの基盤となる「LLM(大規模言語モデル)」の仕組みを知っておくと理解がよりスムーズです。
🔗 LLM(大規模言語モデル)をやさしく解説|仕組みから実用例・課題まで

1. AIとは

AI(Artificial Intelligence)とは、人が普段やっている「考える・選ぶ・判断する」といった作業を、
コンピューターが手伝う仕組みのことです。

私たちは生活の中で、
「このニュースを読むか」「どの商品を選ぶか」など、
多くの判断を無意識に行っています。

AIは大量のデータの中から「特徴」や「傾向」を見つけ出し、
その人に合いそうな情報や選択肢を自動で提案してくれるのが大きな特徴です。

マーケティングにおいてAIは、
ユーザーの情報接触の裏側で「何を見るか」「何を選ぶか」の文脈づくりに関わる存在とも言えます。
この前提があるからこそ、AIがメディアに与えている影響を理解することが重要になります。

2. AIのメディアへの影響

AIは、私たちが「どの情報に触れるか」「何を選ぶか」といった日常的な判断に深く入り込み、メディアの在り方そのものを変えつつあります。
ここでは、マスメディア・広告・EC・エンタメといった領域ごとに、AIがもたらした変化を整理していきます。

2-1. マスメディアとジャーナリズムの変化

テレビ中心の時代は、メディアはマス(視聴率)を取る構造で動いていました。
しかし現在は、YouTube・Netflix・TikTok などの登場により、
視聴者が自ら作り、自ら広め、自ら選ぶメディア環境へ変化しています。

そして今、その「自ら選ぶ」というプロセス自体がAIによって最適化されていることが、
現代のメディア環境を語るうえでの重要なポイントです。

ジャーナリズム領域

  • SNS動画収集の自動化
  • リアルタイム字幕と多言語翻訳(音声 → 情報化)(音声認識AI)
  • テロップ(映像 → 情報化)の自動生成(AI-OCR + メタデータ解析)

例えば、Newsdeckは各種SNSに投稿される
事件、事故、災害などに関する画像・動画をリアルタイムに収集し、
AI が自動で「災害関連」「交通事故」「火事」などを分類します。

これにより、

  • 調査スタッフの情報収集の負担軽減
  • 緊急時の情報確認の高速化
  • 誤情報やノイズの排除

など、ジャーナリズムに求められる即時性・正確性の強化につながっています。

マスメディア領域

YouTube や Netflix は、視聴履歴・再生時間・操作データなどをAIが解析し、
ひとりひとりに合わせたおすすめコンテンツを表示しています。

  • どんな動画に興味を持つのか
  • どの作品を最後まで見るのか
  • どんな行動パターンなのか

もはや視聴者は「自分でコンテンツを探している」のではなく、
今その人に最も刺さる可能性の高い作品をAIが選び出している状態に近づいています。

2-2. EC・広告の変化

AIは、ECや広告領域にも大きな変革をもたらしています。
購買データ・行動履歴・位置情報などを解析することで、
生活者の購買意識や行動パターンをリアルタイムで把握できるようになり、
リアル店舗のデジタル化(フィジカル店舗のデータ活用)にも直結
するようになりました。

現代は、サイバー空間(オンライン)とフィジカル空間(オフライン)が高度に融合し、
多層化・多場化された行動動線の中で生活者は商品や情報と出会っています。

しかし一方で、スマホを中心とした「注意喚起型の広告」(ポップアップ広告・割り込み広告)は
年々「ノイズ」として受け取られやすくなっています。

この中で重要になるのが、
生活者自身の欲望や気分を理解し、文脈に合った提案を行うAI=パーソナルAI です。

  • 企業側のAIが商品や情報を整理して提示
  • 生活者側のパーソナルAIがそれを受け取り比較
  • 最終的に人が選択

という構造が、今後の購買行動のスタンダードになる可能性があります。

レコメンデーションエンジン

Webサイトやアプリ上で
「あなたへのおすすめ商品」「関連アイテム」を表示する仕組みで、
Amazon・Netflix をはじめ、ほぼすべてのEC企業が活用しています。

最適提案の自動化としてAIがユーザーの行動データを解析し、
今その人が興味を持ちそうなものを自動で提示することで
購買率(CVR)や回遊率が向上します。

AIチャットボット

AIチャットボットは、過去の問い合わせデータやFAQを学習し、
接客の自動化としてユーザーの質問に自動応答します。

  • 混雑の平準化
  • 24時間対応
  • 非接触対応

といったニーズが高まったコロナ禍以降、採用が一気に進みました。

フィジカルデバイス

デジタルグラスなどのデバイスを通じて、
街を歩くだけで割引情報や商品情報が視界に表示されるといった
未来型の購買体験も現実に近づいています。

これは、
オンライン広告がリアル空間に溶け込んだ世界 であり、
AIがパーソナライズされた情報を瞬時に提示することで、
生活者の意思決定がシームレスになります。

2-3. エンタメ・スポーツの変化

エンタメやスポーツの世界でも、
AIは体験そのものの質を変える存在として重要性を増しています。

AIが映像・音声・空間情報を解析することで、
観る側にとっても、届ける側にとっても、
これまでにない視聴体験・観戦体験が実現しつつあります。

  • XR・VR・ARによる体験の拡張
  • リアルタイム字幕と多言語翻訳(音声 → 情報化)(音声認識AI)
  • テロップ(映像 → 情報化)の自動生成(AI-OCR + メタデータ解析)

XR・VR・AR

XR(クロスリアリティ)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)といった技術は、
AIとの組み合わせによって新しいエンタメ体験(体験の拡張)を生み出しています。

  • 選手の動きを体感して技術力を高める
  • バーチャル空間でライブに参加する
  • AIが生成したバーチャル演出が加わる

など、画面を見るだけの受動的な体験から、
自分で選び、自分で角度や情報を操作する能動的な体験へと進化しています。

3. AIとメディアの未来

AIの進化は、単にメディアの形式を変えるだけではありません。
「どこで」「何を」「どんな自分として」情報に触れるの
その前提となる社会構造や、人間の人格のあり方にも変化をもたらしています。

オンライン(サイバー空間)とオフライン(フィジカル空間)が自然に溶け合い、
人は状況に応じて 複数の人格(マルチアイデンティティ)を使い分けながら行動するようになりました。

  • 仕事の自分
  • 友人関係の自分
  • SNS上の自分
  • コミュニティごとの自分

これらはすべて「同じ人」ではありますが、
価値観・態度・判断基準が異なる複数の自分として存在するのが現代の特徴です。

AIは、この多層化した人格を読み取り、
それぞれに最適化された情報を提示する存在へと進化しています。

結果として、
人々の生活動線・意思決定・コミュニケーションはさらに多層化し、
社会全体が巨大なメディア(情報の発信点)として機能していく未来が見え始めています。

日本政府が提示するSociety 5.0は、まさにこのような
「サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した社会」を未来像として描いています。
(参考:🔗 内閣府「Society 5.0」公式サイト