「テレワーク中、会社のVPNが遅すぎて仕事にならない」「朝の時間帯は特につながらない」——こうした悩みを抱える中小企業は、いまだに多いのが実情です。

VPNが遅くなる原因は無数にあるように見えて、実は「回線・機器・同時接続数・プロトコル」の4つに集約されます。逆に言えば、この4つを順番に切り分ければ、原因はほぼ特定できます。

この記事では、4つの原因の見分け方と、中小企業の予算感に合わせて段階的に改善する方法を解説します。「いきなり機器を全部入れ替える」前に、まず一度この記事を読んでみてください。


そもそもVPNとは?テレワークでの使われ方

VPNとは、「Virtual Private Network(仮想プライベートネットワーク)」の略です。インターネット回線を使いながら、専用線のような安全な通信を実現する仕組みのことを指します。

具体的には、インターネット上に「暗号化されたトンネル」を作り、その中だけで通信をやり取りすることで、外部から内容を見られないようにします。

テレワーク環境では、このVPNを使うことで、自宅のPCから会社のネットワークに安全に接続できます。社内ファイルサーバーや業務システムにアクセスするために、ほぼ必須の仕組みです。


結論|会社のVPNが遅くなる原因は4つに集約される

会社のVPN(リモートアクセス型VPN)が遅くなる原因は、ほとんどの場合、次の4つのどれかに当てはまります。

No.原因主な症状
回線の問題自宅または社内側の回線が細い
機器(VPN装置)の性能不足暗号化処理が追いつかない
同時接続数の急増朝礼の時間帯など特定の時間に遅くなる
プロトコル(接続方式)の問題古いVPN方式で速度が出ない

なぜテレワークでVPNが遅くなるのか

VPNは通信を暗号化・復号する処理が入る分、通常のインターネット接続より処理が重くなります。

特にコロナ禍以降、テレワークの急増でVPN利用者が一気に増えたことで、「導入当時の想定と現在の実態が合っていない」ケースが目立つようになりました。たとえば10人想定で導入したVPN装置に、現在は50人が同時接続している——こうしたミスマッチが、遅延の根本的な原因になっていることが少なくありません。


原因①|回線の問題

最初に疑うべきは、「自宅側」と「社内側」の回線速度です。

見分け方

  • 自宅側:VPNを切った状態で、自宅のPCからインターネットスピードテストを実行
  • 社内側:社内に出社している人に、社内回線のスピードテストを依頼
  • どちらかが極端に遅ければ、VPNの問題ではなく回線そのものの問題

よくあるパターン

  • 自宅がマンションタイプのインターネットで、夜間に速度が大きく落ちる
  • 社内回線が「ベストエフォート型」で、利用者増加に追いついていない
  • ADSLや古いケーブルテレビ回線をそのまま使い続けている

対処法と予算感

  • 自宅側:個人で光回線への切り替え(テレワーク手当・補助金で対応する企業もあり)
  • 社内側:法人光回線の上位プランへ変更、または別キャリア併用
  • 予算感:社内回線の変更は月額数千円〜数万円のアップで改善するケースが多い

原因②|機器(VPN装置)の性能不足

回線に問題がなければ、次はVPN装置(ルーター・UTM)の処理能力を疑います。

VPNは暗号化・復号処理に大きなCPUリソースを使います。装置のスペックが利用規模に合っていないと、ここで処理が詰まり、通信全体が遅くなります。

見分け方

  • VPN装置の管理画面でCPU使用率を確認
  • 製品の「推奨ユーザー数」「推奨同時接続数」を超えていないか確認
  • ピーク時間帯(午前9〜10時など)のスペック使用状況を見る

よくあるパターン

  • 10人想定の小型ルーターに、現在は30人が接続している
  • 5年以上前に導入した機器を、今のテレワーク規模で使い続けている
  • 「壊れていないから問題ない」と判断して、性能不足に気づいていない

対処法と予算感

中小企業向けの法人VPNルーターは、機種により価格帯が分かれます。

  • 小規模向け(推奨ユーザー数〜数十名):希望小売価格7万〜10万円程度
  • 中規模向け(拠点間接続・上位機種):12万円前後〜
  • 10ギガイーサ対応など大規模向け:30万円超

※価格はメーカー希望小売価格の目安です(YAMAHA・NEC等の代表的な法人向け機種の例)。実勢価格は販売店・時期により変動します。

性能を見直す際は、現在の同時接続数の1.5倍程度の余裕を持って機器を選ぶのが目安です。


原因③|同時接続数の急増

VPN装置には「同時接続数の上限」があります。これに近い状態で運用していると、たとえスペックには余裕があっても、特定の時間帯だけ極端に遅くなる現象が起きます。

見分け方

  • 「朝の始業直後」「午前中だけ遅い」など、時間帯による偏りがあるか確認
  • VPN装置のログで、同時接続数の推移を見る
  • 接続数のピークが、機器の上限の80%を超えていたら要注意

よくあるパターン

  • 朝礼や定例会議の前後、全員が一斉に接続して遅くなる
  • 「Microsoft Teams」「Google Meet」などのオンライン会議で帯域を大きく消費
  • VPN経由でクラウドサービスを使い、二重に帯域を使ってしまっている

対処法と予算感

  • 無償でできる対策:時間帯のずらし運用、不要なVPN接続の整理
  • 機器側の対策:上位機種への入れ替え、または増設
  • 抜本的な対策:クラウド型VPN(SaaS型)への切り替え
  • 月額制で、利用人数に応じて柔軟にスケールできる
  • 機器を持たないため、保守の手間が減る
  • 料金はサービス・人数により大きく変動するため、複数社の比較見積もりがおすすめ

原因④|プロトコル(接続方式)の問題

VPNには複数の接続方式(プロトコル)があり、選択するプロトコルによって速度に差が出ます。

主なVPNプロトコルの特徴

プロトコル特徴
IPsec / IKEv2法人で広く使われている標準的な方式。速度・安定性ともに高い
SSL-VPNWebブラウザベース、設定が比較的容易
WireGuard新しいプロトコル。シンプルかつ高速で、近年注目されている
L2TP/IPsec古めの方式。新しいプロトコルに比べると速度面で劣る傾向
PPTP最も古い方式。セキュリティ上の問題があり、現在は非推奨

見分け方

  • VPN装置の管理画面で、現在使っているプロトコルを確認
  • 古いプロトコル(L2TP/IPsec・PPTP)を使い続けていないか確認

対処法と予算感

  • 現在の装置で新しいプロトコルに切り替えられる場合は、設定変更で対応可能(コスト0円)
  • 装置側が古いプロトコルしか対応していない場合は、機器の入れ替えが必要

※法人で広く使われているIPsec/IKEv2は実用上の速度・セキュリティが十分なため、必ずしも最新のWireGuardに切り替える必要はありません。自社の装置が対応している範囲で、より速いプロトコルを選ぶという考え方で十分です。


中小企業の予算感に合った改善ステップ

ここまでの4原因を踏まえて、コストを抑えながら段階的に改善する手順を整理します。

ステップ内容予算感
Step1設定の見直し(同時接続数・運用時間)0円
Step2プロトコルの変更(装置が対応していれば)0円
Step3回線・契約プランの見直し月額数千円〜数万円
Step4VPN機器のアップグレード数万円〜数十万円
Step5クラウド型VPN(SaaS型)への切り替え月額制(人数による)

ポイントは「Step1から順番に試す」こと。多くの企業が、いきなりStep4・Step5に飛びついて、無駄な投資をしてしまうケースがあります。まずは無償でできる対策から進めれば、改善できる余地が大きいことに気づくはずです。

また、プロに相談するのも一つの選択肢です。


やってはいけない対処法3つ

最後に、「やりがちだけど避けたい」対処法を3つ紹介します。

避けたい対処法①|とりあえず一番高い機器を買う

「高い機器なら安心」という発想は危険です。原因が機器でなければ、いくら投資しても改善しません。必ず見分けを行ってから、機器の更新を判断してください。

避けたい対処法②|セキュリティ機能をオフにする

「暗号化が重いなら、いっそ切ってしまえば速くなるのでは」という発想は本末転倒です。VPNはセキュアな通信を確保するための仕組みであり、これを切ると情報漏えいリスクが急増します。絶対に避けてください。

避けたい対処法③|原因の切り分け前に「ゼロトラスト導入」を急ぐ

ゼロトラストとは、社内外を問わず、すべての通信を都度確認するセキュリティの考え方です。従来の「社内なら安全」という前提を捨てたモデルで、テレワーク時代の新しい主流とされています。

「VPNではなくゼロトラストの時代だ」という記事も多いですが、ゼロトラストへの移行は大きな投資と運用変更を伴います。まずは現状のVPNの問題を切り分けてから、必要に応じて検討するのが現実的な順序です。


まとめ|「原因を特定してから対処する」が鉄則

会社のVPNが遅い問題は、闇雲に投資しても解決しません。要点を3つに整理します。

  1. 原因は「回線・機器・同時接続数・プロトコル」の4つに集約される
  2. 設定見直しやプロトコル変更など、無償でできる対策から始める
  3. 大規模投資の前に、必ず原因を切り分ける

「自社で判断が難しい」「どこから手をつけていいか分からない」という場合は、ネットワーク全体を診断してくれる事業者に相談するのが結果的に近道です。